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【2026年対応】中小企業が今すぐ取り組むべき「熱中症対策」(改訂版)
- 更新日:2026/08/18
- 投稿日:2026/06/16
近年、猛暑の影響により職場での熱中症リスクが高まり、労働災害の増加や法規制の強化など、企業にとって無視できない経営課題となっています。とりわけ現場業務を抱える中小企業においては、従業員の安全確保と事業継続の両面から、早急な対応が求められています。本記事では、厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)の内容も踏まえ、熱中症対策の基本と法改正のポイントを整理するとともに、中小企業が取るべき具体的な対応について、「何をどうすべきか」という実務視点で解説します。
- この記事でわかること
熱中症対策の必要性と義務化の概要
近年、日本では夏季の気温上昇や熱波の頻発により、職場での熱中症リスクが年々高まっています。特に重要なのは、熱中症は真夏だけの問題ではないという点です。
実際には、
- 注意が必要な時期:5月~9月頃
- 特に危険:梅雨時期・梅雨明け直後
とされており、気温だけでなく湿度の高さもリスク要因となります。
梅雨明け直後が特に危険とされる理由は、身体が暑さに慣れていない「暑熱順化」不足の状態にあるためです(詳細は後述)。発汗や体温調整が十分に機能せず、短時間の作業でも体調を崩す可能性があるため、早い段階からの対策が事故防止の大きな分かれ目となります。
こうした状況を受け、2025年6月1日より労働安全衛生規則が改正され、企業における熱中症対策は「努力義務」から「法的義務」へと強化されました。
<労働安全衛生規則改正(2025年6月1日)>
■企業に求められる主な内容
- 異常時に備えた報告体制の整備(労働安全衛生規則 第612条の2)
- 作業中断や冷却措置などの対応手順の明確化・周知
- 塩・飲料水の備え付け(労働安全衛生規則 第617条。多量の発汗を伴う作業場が対象)
- 従業員への教育および周知
■対象となる作業条件
- WBGT28℃以上または気温31℃以上
- 連続1時間以上、または1日4時間以上
屋外作業に限らず、倉庫・工場・店舗などの屋内作業でも対象となる場合があり、多くの企業が対応を求められます。また、いわゆる「スポットワーク」を利用する労働者についても、当然にこの義務の対象・雇入れ時教育の対象となる点に注意が必要です。単発・短期の労働者は暑熱順化ができていないことが多いため、通常の従業員以上に配慮が求められます。
■罰則
- 6か月以下の懲役
- 50万円以下の罰金
対策の未実施は法令違反とみなされるため、早期対応が不可欠です。
対策の具体的な進め方
(1)WBGT値を把握する
熱中症リスクを評価する最も基本的な手法が、WBGT(暑さ指数)の把握です。日本産業規格に適合したWBGT指数計を作業場所に設置し、随時測定することが基本とされています。地域の一般的なWBGT(環境省熱中症予防情報サイト等)を参考にすることもできますが、直射日光下や熱源の近く、風通しの悪い屋内などでは実測値の方が高くなる傾向があるため、注意が必要です。
WBGTの基準値は一律28℃ではなく、作業の身体負荷(代謝率レベル)と、その従業員が暑熱順化しているかどうかによって変わります。
| 身体作業強度の目安 | 暑熱順化者の基準値 | 非順化者の基準値 |
| 安静・軽作業(デスクワーク等) | 33℃ | 32℃ |
| 低代謝率(軽い手作業、ゆっくりした歩行等) | 30℃ | 29℃ |
| 中程度代謝率(釘打ち、除草、中量物の運搬等) | 28℃ | 26℃ |
| 高代謝率(重量物運搬、シャベル作業等) | 26℃ | 23℃ |
| 極高代謝率(激しい肉体労働、階段昇降の連続等) | 25℃ | 20℃ |
※厚労省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」表1-1をもとに簡略化
「WBGT28℃以上」という数値は、報告体制の整備など法定義務が発生する目安であり、実際に作業を中止・休憩すべき基準はこのように業務内容ごとに異なります。自社の作業内容がどの区分に近いかを確認しておくことが重要です。
(2)休憩時間の目安を決めておく
「こまめに休憩する」だけでは現場では判断に迷います。ガイドラインでは、WBGT基準値からの超過度に応じた休憩時間の目安が示されています。
| WBGT基準値からの超過 | 休憩時間の目安(1時間あたり) |
| 1℃程度超過 | 15分以上 |
| 2℃程度超過 | 30分以上 |
| 3℃程度超過 | 45分以上 |
| それ以上超過 | 作業中止が望ましい |
※暑熱順化していない作業者は、上記よりさらに長い休憩が望ましいとされています。
(3)暑熱順化を計画的に行う
暑熱順化(熱に慣れ、体が適応すること)の有無は、熱中症の発症リスクに大きく影響します。ガイドラインが示す暑熱順化の要点は以下の通りです。
- 7日以上かけて、暑熱環境での作業時間・身体負荷を徐々に増やしていく
- 新規入職者や、長期間その作業から離れていた従業員は「順化していない」前提で扱う
- 夏季休暇などで熱への曝露が4日以上途切れると順化の喪失が始まり、3~4週間でほぼ完全に失われる
- 連休明けは、休暇中の活動状況をヒアリングし、必要に応じて順化期間を再設定する
梅雨明け直後に労災が多い理由の1つはここにあります。「今年初めての猛暑日」の際には、従業員の稼働を調整し、順化期間を設けることで熱中症による事故防止につなげましょう。
(4)水分・塩分補給を数値で管理する
労働安全衛生規則 第617条により、多量の発汗を伴う作業場では塩および飲料水の備え付けが義務付けられています。目安としては、0.1~0.2%の食塩水、またはナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンクを、20~30分ごとにカップ1~2杯程度摂取することが望ましいとされています(摂り過ぎにも注意)。尿の回数が少ない、尿の色が濃いといったサインも、水分不足の目安として従業員に周知しておくとよいでしょう。
(5)報告体制は「仕組み」で作る
「報告体制の整備」といっても、具体的に何をすればよいか分かりにくいものです。ガイドラインが挙げる具体策としては、以下のようなものがあります。
- バディ制:2人以上でペアを組み、定期的に声をかけ合って互いの健康状態を確認する
- ウェアラブルデバイスの活用(ただし単独では正確に状態を把握できないため、他の方法と併用)
- 巡視の頻度を上げ、新規入職者や休暇明けの従業員には特に注意を払う
自社の業種・作業場所の実情に合わせて、どの方法を組み合わせるかを事前に決めておくことが重要です。
(6)作業別に見た対応のポイント
- 建設現場など屋外作業:日陰での作業や早朝作業への切り替えで直射日光下の時間を短縮する。休憩場所が遠い場合は移動時間を考慮した休憩時間を設定する。
- 運送業:日陰でのこまめな休憩、車内外の温度差を大きくしない工夫(走行中に窓を開ける等)。
- 重量物の運搬作業:台車やリフターの活用、複数人での分担により、1人あたりの負荷を下げる。
- 夜間のビルメンテナンス作業など:冷房設備が停止している屋内でも油断せず、通気性の良い服装と単独作業の回避を徹底する。
- 調理場:フィルターの清掃などで排気機能を確保し、温度上昇を抑制する。
- ビニールハウス・畜舎など:WBGT値が特に高くなりやすいため、早朝作業とこまめな日陰休憩を基本とする。
熱中症対策のポイントと経営への影響
熱中症対策は単なる現場の安全対策にとどまらず、企業の経営リスクそのものに直結する取り組みです。重要なのは、対策を「実施するかどうか」ではなく、「実施しない場合にどのような影響があるか」を踏まえて判断することです。
■対策と経営影響の整理
| 対策項目 | 実施しない場合の影響 | 具体的な対応例 |
| 高温環境の回避 | 体調悪化・作業中の事故増加 | 日陰の確保/空調・送風機の導入 |
| 水分・塩分の補給 | 脱水症状・意識障害 | 定期的な水分補給/塩分タブレットの配布 |
| 暑熱順化 | 順化不足による重症化リスク | 7日以上の順化プログラム、休暇明けの再確認 |
| 体調管理の徹底 | 体調不良の見逃し・重症化 | 作業前の体調確認/無理な作業の回避 |
| 暑さの見える化 | 危険状態の認識遅れ | 気温・WBGTの測定と共有 |
| 作業管理の最適化 | 生産性低下・事故発生 | 作業時間調整/休憩ルール設定 |
| 初期対応の徹底 | 重篤事故・死亡事故 | 作業中断/冷却・迅速な対応 |
■見逃してはいけない初期症状
| 分類 | 主な症状 |
| Ⅰ度(軽度) | めまい・立ちくらみ・生あくび・筋肉痛やこむら返り・大量の発汗 |
| Ⅱ度(中等度) | 頭痛・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・集中力や判断力の低下 |
| Ⅲ・Ⅳ度(重度) | 意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温 |
これらの症状は比較的軽度に見える場合でも、放置すると急速に重症化する恐れがあります。現場での早期発見と即時対応が、安全確保の最重要ポイントです。
■基礎疾患のある従業員への配慮
糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患などは、脱水しやすくなる・発汗機能が低下するなどの理由から、熱中症の発症リスクに影響を与えることが分かっています。該当する可能性のある従業員については、産業医や主治医に相談させるなど、個別の配慮を行うことが望ましいとされています。健康診断結果(労働安全衛生規則 第43条~第45条)に基づき、必要に応じて就業場所の変更や作業の転換を検討することも事業者の義務です。
■経営への波及リスク
対策が不十分な場合、問題は現場にとどまらず、企業経営全体へと波及します。
- 法的責任の発生(罰則・損害賠償)
- 作業停止による事業継続リスク
- 従業員の離職や採用難
- 企業イメージや取引先評価の低下
現場の事故は単なる労災ではなく、経営問題として影響が拡大します。
万が一発生した場合の初期対応
熱中症が疑われる従業員を発見した場合の基本的な流れは、以下の通りです。
1.作業から離脱させ、身体を冷却する(涼しい場所へ移動、水をかける、氷やアイススラリーで冷やす等)
2.意識の状態を確認する(「意識の有無」だけでなく、返事がおかしい・ぼーっとしているなど普段と様子が違う場合も異常ありとして扱う)
3.異常がある場合は直ちに救急隊を要請。判断に迷う場合は#7119(救急安心センター事業の短縮電話番号)等を活用し、専門家の指示を仰ぐ
4.異常がなく自力で水分摂取できる場合も、経過観察を継続し、回復しない場合は速やかに医療機関へ搬送
5.医療機関までの搬送や経過観察中は、対象者を1人にしない(単独作業の場合は常に連絡できる体制を維持)
回復した場合でも、体調が後から急変するケースがあるため、連絡体制や体調急変時の対応をあらかじめ定めておくことが重要です。この一連の流れを簡易フローチャートにして休憩室などに掲示しておくと、実際の緊急時に迷わず動けます。
保険での備え:労災保険に加え法定外補償という選択肢
前提として業務中の熱中症は国の労災保険による補償の対象となります。ただし、労災保険は治療費や休業4日目からの休業補償が給付されますが、休業1~3日については補償対象となっておらず、給付割合も満額支給ではありません。そのため、法定外補償(労災上乗せ保険)による備えを活用することも、経営判断として重要になります。
労災上乗せ保険の1つとして、東京海上日動の「超Tプロテクション(業務災害総合保険)」があります。基本補償では、従業員が業務中または通勤中に被った身体障害に対する死亡・後遺障害・入院・手術・通院の各保険金に加え、日射病・熱中症等の業務に起因する疾病も支払対象に含まれています。労災保険の給付決定を待たずに保険金を受け取れる点も特徴で、万が一の際に企業の負担を早期にカバーできます。
現場の熱中症対策を強化するとともに、こうした法定外補償の活用も検討しておくと、従業員・企業双方にとってより手厚い備えとなります。
(出典:東京海上日動「超Tプロテクション 補償内容」 詳細は約款・重要事項説明書でご確認ください)
熱中症対策と万が一への備えを
熱中症対策は、単なる安全管理ではなく、法令遵守・人材確保・経営リスク回避といった観点から、企業経営に直結する重要な課題です。対策を怠った場合には、労働災害として企業の安全配慮義務を問われる可能性がある点にも留意が必要です。
重要なのは、対策の整備だけでなく、現場で確実に機能する体制を構築すること、そして万が一の事態が発生した際にも適切に対応できる備えを講じておくことです。自社の業種・作業内容に合わせて、WBGT基準値の把握、休憩時間のルール化、暑熱順化プログラム、報告体制の仕組み化、初期対応フローの整備、そして保険による法定外補償の確認という6つの柱を、段階的に実行していくことが現実的な対応となります。
(本記事は、厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」および改正労働安全衛生規則(2025年6月1日施行)の内容をもとに構成しています。)
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