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インタビュー

お客様のボヤキを拾って、世界と戦う

株式会社筑水キャニコム代表取締役社長 包行良光

  • 更新日:2024/04/10
  • 投稿日:2024/04/10

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「ピンクレディ」「安全湿地帯」「草刈機まさお」。この文字列を見て、一体何のことだろうと思う方がほとんどでしょう。これらはすべて、草刈機や運搬車の名前。製造販売しているのは、福岡県うきは市にある筑水キャニコムです。キャニコムは、売り上げの半数以上が海外売り上げ。同社のグローバル化に大きく貢献したのが、現社長の包行(かねゆき)良光さんです。地域に大きな影響力をもつ包行家の子どもということで、幼い頃から好奇の目にさらされてきた良光さん。中学進学を機に地元から離れますが、父親からの一本の電話をきっかけにキャニコムに入社することに。大量生産でコストを下げ、販売台数を伸ばすという当時の戦略が、行き詰まってしまったのです。状況を打破する策として、良光さんの父親であり、現会長の均さんは、本格的な海外進出を考え、それを良光さんに託すことにしました。英語も話せないまま、単身アメリカへと飛んだ良光さんでしたが、持ち前のフランクさでどんどんと周囲の人を惹きつけ、ビジネスチャンスを掴んでいきます。そしてマーケット・イン戦略が功を奏し、会社の業績はみるみる回復。良光さんが社長就任後は、高付加価値路線を徹底するとともにグローバル展開をさらに強化し、今なお売り上げは右肩上がりです。 良光さんが貢献したのは、海外進出だけではありません。社員の働く環境を良くすることにも尽力してきました。それは一体なぜなのでしょうか。飄々としていながらも、人への思いやりにあふれる良光さんにお話をうかがいました。

この記事でわかること
  1. 既存商品に固執しないことが功を奏した
  2. 良い人材が、良いものを造る
  3. 時代の流れと、顧客ニーズをマッチさせるものづくりを

既存商品に固執しないことが功を奏した

――入社後半年で海外に行かれていますが、これは自ら希望したものですか?

いやいや、まったく。誰も行こうともしないから、私が仕方なく行ったという感じですね。

――仕方なく?

私は家業を継ぐつもりがまったくなくて、中学校に進学したタイミングからずっと地元を離れていたんです。なのに息子がいきなり会社にやってきたもんだから、社員たちから敬遠されてしまって。会社に居場所はないし、なのに会社をどうにかしなきゃいけないというプレッシャーはあるしで、当時はよく家で泣いていました。

――それで海外に行ったと。海外には、すぐに馴染めたんですか?

まったく。英語もできないしね(笑)。だけど当時のキャニコムって労働環境がすこぶる悪く、自分が海外でのほほんとしている間も、みんなは福岡で歯を食いしばって働いていると思うと申し訳なくなっちゃって。それで、できることからはじめようと奮い立ちました。ちょうどその頃、マイクロソフトの上層部の人と仲良くなったんです。当時の私は髭も生やしてたし、身なりも汚かったんです。その方から「お前の身なりからしか品質は分からないから、まずは身なりを整えろ」と指摘されたんです。ハッとさせられましたね。それで髭を剃って、毎日スーツを着るところからはじめました。ほかにも、これまで予算をかけてこなかった展示会ブースの装飾について、「展示ブースに金をかけるのは、投資だぞ」と教えてくれる人もいて。アメリカで知り合った人たちに、ビジネスの基本を叩き込まれましたね。そこからアメリカでの売り上げが上がっていき、2016年頃には、我々の主戦場が海外になっていました。私はみんなと楽しくお酒を飲んでいただけなのに、まったくおかげ様人生ですよ(笑)。

――海外で成功した秘訣は、何だったと思いますか。

マーケット・インという言葉が、一番腑に落ちると思います。その国の特性に合わせた商品を提案するようになった。それまでは、国内で余った製品を海外に持って行けば、ジャパンクオリティということで売れたんだけど、2000年代にその神話は崩壊しました。全く売れないんです。そこで、トウモロコシ畑なんかに出向いて、お客様の「もっとこうだったら使いやすいんだけど」みたいなボヤキを拾い、製品に反映させることを繰り返していました。既存製品を改造して、海外の人の身長に合わせてハンドル位置を高くしたり、速度を調整してみたりしたら、どんどん売れるようになったんです。既存製品に固執しなかったのが良かったですね。

――グローバルニッチ戦略は、どうやって決まったのですか?

今更メジャーで戦っても、大企業には勝てないですから。ニッチな産業であれば、グローバルでも戦える余地があるのではと考えたんです。勝てる確証があったわけではないんだけど、まだ国内売り上げに依存していた1990年頃から、ウチのトラックには『世界の運搬車・筑水農機』と書かれていました。スズキのインド戦略に近い話かもしれません。

良い人材が、良いものを造る

――良光さんは社長に就任後、どんな会社にしていきたいと考えていましたか。

田舎でも、当たり前に世界相手にやっていける会社ですね。ウチって昔、うきはのぬるま湯って揶揄されていたんですよ。うきはの人間なんかが、海外で戦えるわけがないって。だけど私は、社員への教育やチーム・ビルディングがしっかりできていれば、無謀なことではないと思っていました。

――それを実現させるために意識していることはありますか。

社員たちが稼げる場所、言い換えると良いものが作れる場所をいかに作るかが、私の使命だと思っています。たとえば、社員から何かアイデアが出てきたら「いいんじゃない?」と言って、肯定も否定もしません。挑戦を後押しします。「もっと専門的な知識を身につけたいから、勉強がしたい」という社員がいれば、全力でサポートしますよ。良いものさえ作ってくれれば、あとは私や幹部たちが、外で何百億でも売ってきますから(笑)。働く環境をデザインしていかなきゃいけないと常々考えていますね。

――「働く環境をデザインする」って良い言葉ですね。

要は、みんなが主役となって活躍できる、働きやすい環境を作りたいってことです。昔、長時間労働をしていた社員がいて、なんでそうなっているのか理由を尋ねたんですよ。すると、彼に仕事が回ってくる前の段階の作業に時間がかかって、そのしわ寄せがきていると。作業の流れの悪さに原因があると分かったので、すぐに改善しました。私は、みんなが疲弊しきっていた、かつてのキャニコムの過酷な労働環境を知っているから、あの頃のようにだけはしたくないんです。良い人材が、良いものを作るというのが、私の理念です。

時代の流れと、顧客ニーズをマッチさせるものづくりを

――御社は、100年企業、100ヵ国取引、100億円売上を目指す「ビジョン300」を掲げてらっしゃいます。分かりやすいし、おもしろいなと思いました。

2023年の時点で、売り上げ100億円は達成しました。国は、54か国で止まっています。私ががんばればいいんだけど、いかんせん移動が多くて疲れちゃうから、なかなか行けない(笑)。100億円を達成するまでは、大変でしたよ。これまでの経験から、すぐに売り上げが上がる業界でないことは分かっていたから、私が事業承継した時は「売り上げ50億がせいぜいだぞ」と言われていたんです。だけど今、海外だけでなく、国内の売り上げも微増しているから驚きですよね。みんなが、良いものを作り続けてくれた結果です。創業100年は、このまま驕らず歩んでいけば、自ずと達成できるでしょう。

――今後の課題はありますか。

環境に即したものづくり、ですね。この環境っていうのは、地球環境もそうですし、労働環境も含みます。たとえば、ウチの製品は化石燃料で動いていますが、EVに置き換えた時にお客様はハッピーなのか。我々の商売は、買ってくださるお客様がいて初めて成り立つものなので、いくら時代の流れがそうだからと言って、お客様が求めているものとマッチしなければ意味がないんです。お客様が本当にEV化を求めているのかどうか、見極めなければなりません。今後は、そういうバランスを取る機会が増えそうです。

――これからどんな会社でありたいですか?

今、うきは市の人口2万7000人のうち、1%ほどがキャニコムの社員なんですよ。300名ほどが、地方の小さなまちから世界と戦っている。これって本当にすごいことだなって。そう思いません?みんなすごく頑張ってくれています。だからこそ、これからも地方と世界を繋ぐ、地元の人に自慢に思ってもらえるような企業でありたいです

筑水キャニコム

1948年に「包行農具製作所」として創業、乗用草刈機や農業用運搬車の製造販売を行う。現会長の均氏が2代目に就任してからは「草刈機まさお」「芝耕作」など、個性的なネーミングとデザインが特徴の製品を開発。新製品が発売されるたびに「ネーミング大賞」を受賞するなど、業界の注目を集める存在となった。1989年には社名を「筑水キャニコム」に改め、海外のニーズに合わせた製品開発を本格的に開始。現在では、売り上げの半数以上が海外売り上げとなっている。キャニコム(CANYCOM)という名称は、「CAN CARRY ANY COMMUNICATION」と「CANEYUKI(包行) COMPANY」のダブルミーニング。

包行良光氏

東京の大学を卒業後、ホームセンターを運営する一般企業に就職。各地のホームセンターで働いたのち、2004年3月に家業である筑水キャニコムに入社。半年後に単身渡米し、CANYCOM USAの社長としてアメリカ市場を開拓、海外事業を軌道にのせる。2008年4月からはグローバル・マーケティング本部長として国内外の営業を陣頭指揮し、2015年1月に代表取締役社長に就任。「良いものづくりは、良い人材から生まれる」という考えのもと、社員一人ひとりとコミュニケーションをとることを大切にしており、300名ほどいる社員全員の顔と名前が一致する。趣味は、マラソン。学生時代はラグビー部に所属し、渡米後も現地の社会人ラグビーチームに所属していた。

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執筆プロフィール
BUDDY+編集部
中小企業の経営者の皆さまに向けて、経営課題解決につながるお役立ち情報をお届けします。

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